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    蔵 

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    未整理の状態ですが

     

    このページには

     

    恒志会会報や関連する諸団体の記事などを掲載しています

     

    Medium には、より多く掲載していますので、そちらもご覧ください

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    蔵 (弐 )  蔵(参)

  • 長谷川 潔の銅版画

    「ジロスコープのある静物画」

     

    毎日眺めています。

    空中に張られた1本の細い糸の上に独楽が回っている絵です。

    心棒に曲がりがあれば独楽は回りません。

    ちょっとでも緊張を緩めるとバランスを失ってしまいます。

    怠けたらあかん、と毎日自分に言い聞かせて眺めているわけですわ。

     

    Tsuneo Katayama

  • 遠藤周作、30年前の提言から 「心あたたかな医療」運動のこと

    2012 恒志会会報 Vol.7 より

    加藤宗哉 Muneya Kato:作家 「三田文学」編集長

     

     

    作家・遠藤周作が晩年に行なったキャンペーン「心あたたかな医療を考える」は、遠藤家で家事を手伝う女性の、突然とも言える死がきっかけとなってはじまった。

     

    彼女は25歳という若さで骨髄癌に冒され、余命一ヶ月を宣告されていた。

    それでもなお種々の検査が繰り返されるという状況を見かねた遠藤は、病院に対して検査回数の減少を申し入れた。

     

    同時に、遠藤は人気作家になって以来初めて、自分から原稿を新聞社に持ち込んだ。

    そのエッセイ「患者からのささやかな願い」は 1982(昭和57)年の4月4日から9日まで「読売 新聞」夕刊に掲載され、それに共感した読者からの投書は300通を超えたと報告されている。

     

    こうして、「心あたたかな医療を考える」運動は開始された。

    遠藤は新聞・雑誌で精力的に医療 関係者たちと対談をした。

    あるいは病院や大学で 講演を行ない、医療奉仕のボランティア・グループも組織した。

     

    しかしそのような提言や行動が、一部の医師や看護師からの反発を招いたのも事実だった。

    彼等の多くは言った。 ―医療には、小説家のような「医療の素人」にはわからぬ問題が数多くあるのだ。

    これに対して遠藤はこう反論した。 ―医師が病気の玄人だと言うのなら、私は患者の玄人です。

     

     

  • 加藤 宗哉かとう むねや

    1945年 東京生まれ。

    慶應義塾大学経済学部卒。

    学生時代に遠藤周作編集の「三田文学」に参加、同誌に発表した小説が文芸誌に転載され、作家 活動に入る。

    著書に『モーツァルトの妻』(PHP文庫)、『遠藤周作 おどけと哀しみ――わが師との三十年』(文 藝春秋)『愛の錯覚 恋の誤り――ラ・ロシュフコオ『箴言』からの87章』(グラフ社)、『遠藤周作』 (慶應義塾大学出版会)など。

    現、慶應義塾大学文学部非常勤講師、東京工芸大学芸塾学部非常勤講師。

    1997年より 「三田文学」編集長。

  • ジョージ・E・マイニー博士(歯科医師)へのインタビュー

    PPNF財団機関紙「HEALTH & HEALING WISDOM」2007年 春号 vol.31 N0.1 より転載

    編集部注:このインタビュー記事は、会報《Mastering Food Allergies》 (食物アレルギーの克服) 1994年1・2月号(第77巻)に初めて掲載されたもの。マイニー博士はすでに現役を退き、現在は執筆活動を続けているが、PPNFの創立理事会メンバーの一人である。博士の許可を得てここに転載。

    聞き手:マージョリー・ハート・ジョーンズ(登録看護師)

     

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    マイニー博士は歯の根管治療に潜む危険性を公にするにあたって、きわめて微妙な立場に立っている。50年前には、米国歯内療法協会(根管治療の専門家たち)の創立メンバーの一人だったのだから! つまり、膨大な数の根管治療を手がけてきた。そして、根管の充填をしていない時は、週末のセミナーや臨床講義の場で全米の歯科医の 技術指導に当たってきた。

     

    約2年前、引退したばかりの博士は、ウェスト ン・A・プライス博士(歯科医師)の研究を詳細に述べた1174ページの本を読破しようと決心した。 驚愕と衝撃に襲われた。そこに収められていたのは、充填が施された根管に潜む潜在的感染から生じる全身性疾患についての、信頼に足る記録であった。博士はその後、「Root Canal Cover-Up,」を 執筆し、現在は、一般の人々に警鐘を鳴らすために、ラジオやテレビに出演したり、さまざまな集まりに顔を出したりしている。

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    MJ:根管治療にはどんな問題点があるのか説明してください。

    GM:最初にお断わりしておきますが、わたしの本は、ウェストン・プライス博士の25年にわたる綿密で非の打ちどころのない研究を土台にしたものです。博士は60名のチームを率いて研究を進め、 その研究結果は − これまで公表を禁じられてきましたが − 史上最高の医学的発見としてランクされるべきものとなりました。重い病気を引き起こす発見困難な病原体を長期間にわたって探し求めるというような、よくある医学研究の話ではありません。何百万もの細菌がいかにして歯の構造内部に潜入し、単独の病原体に起因するものとし ては最大数の病気をもたらす結果となるかについて、述べたものなのです。

     

    MJ:どのような病気でしょう。いくつか例を挙げていただけますか。

    GM:はい、慢性退行性疾患のうち、かなりの割合が、根管充填の施された歯から生じているといえましょう。

     

    もっとも多いのが心臓・循環器系の病気で、プライス博士はそれらを引き起こす病原体を16種類も発見しました。次によく見 受けられるのが、関節炎やリューマチといった関節の病気です。3番目は − と いっても、2番目とほぼ同数ですが − 脳と神経系の病気です。4番目以下も同じで、名前を挙げることのできるどのような病気も、根管充填の施された歯から生じる可能性があります(そして、一部の症例では、現実にそうなっています)。

     

    研究そのものについてお話ししておきましょう。 プライス博士は1900年に研究に着手しました。 研究は1925年まで続けられ、1923年にはその成果を2巻本にして出版しました。1915年、全国歯科医師会(数年後に米国歯科医師会に改称)が博士の業績に大きな感銘を受け、プライス博士を初代リサーチ・ディレクターに任命しました。博士の諮問委員会はまるで当時の医学会と歯科学会 の紳士録のようです。細菌学、病理学、リューマ チ病学、外科、化学、心臓病学の分野を代表する錚々たる人材がそろっていたのです。

     

    著書のなかで、プライス博士はこう述べていま す。「連鎖球菌による病巣感染が全身に及ぼす影響の深刻さにいち早く気づいていた点で、おそら く、フランク・ビリングズ医学博士がアメリカの他のいかなる内科医よりも大きな賞賛を受けるべきでしょう」

     

    ここでじつに不幸なのは、病巣感染学説を信じない、もしくは、理解しきれない少数の独裁的な医師グループによって、約70年前にきわめて貴重な情報のもみ消しが図られ、完全に隠蔽されてしまったということです。

     

    MJ:“病巣感染”学説とはどのようなものですか。

    GM:原感染病巣 − 歯、歯根、炎症を起こした歯周組織、扁桃など − に潜む細菌が、心臓、眼球、肺、腎臓、その他の臓器、腺、組織へ移動して、同じ感染を伴う新たな二次疾患を作りだすという説です。単なる学説ではなくなり、何度も立証され、論証されてきました。現在では、100パー セント受け入れられています。

    しかし、第一次大戦中と1920年代の初めのころは、革命的な考え方だったのです!

     

    今日、患者も医師も“洗脳”されて、今の世の中には抗生物質があるから感染症は昔ほど深刻な問題ではなくなった、と考えるようになっています。まあ、イエスともいえるし、ノーともいえるでしょう。根管充填が施された歯は、もはや生きている歯ではないため、内部への血液の供給が断たれています。従って、抗生物質が血液内を循環しても、歯の内部にまでは到達しえないため、そこに生息する細菌を死滅させることができないのです。

     

     

  • 佐伯さんとの出会い

    一治療を担当させていただいてー

    沖 淳:常務理事・歯科医師

     

    人生のさまざまな局面で偶然の出会いが重要な役割を果たす結果になることがあります。

    その出会いを偶然と考えるか、それとも必然と考えるかで自分自身の気持ち、行動に大きな影響を与えるはずです。本当を言えば、人生は全くの偶然でもなく、全くの必然でもない、偶有性の範囲で日々生活しているのが正解かもしれません。

     

    しかしながら、人との出会い、患者さんとの出会いの中で、必然ではないかと強く感じる出会いが、ときどきあります。

    佐伯(仮名)さんとの出会いも何かそのような気がします。

     

    この一年、片山恒夫先生の遺稿となったマイニー博士著『Root Canal Cover-Up』の日本語版『虫歯から始まる全身の病気 一隠されてきた歯原病の実態ー 』を発刊するため編集に関わり、主題である「病巣感染」について多くの本を読む機会を得ました。

     

    その中の一冊が堀田修先生の『慢性免疫病の根本治療に桃む』でした。

    堀田先生は原因不明とされているIgA腎症の原因が扁桃や歯からの病巣感染にあるとの考えで、独自の治療法を生み出された腎臓内科の専門医です。1000症例以上の治療を手がけられ、多くの患者さんを寛解*・治癒に導かれた実績をお持ちです。

     

    当初、国内ではその考えは認められず、よくある話ですがアメリカで論文を発表された後、世界でも同じような論文が発表されるようになった今、国内でもやっと一般的な治療法として認められるようになってきているようです。

     

    その著書の中に強く衝撃を覚えた一行がありました。病巣感染の原病巣を初期段階で見つけ治療していけばIgA腎症が透析にまで行かなくて済み、多くは根治・寛解*が期待できるという記述でした。

     

    IgA腎症を早く発見、治療することにより透析を避けられる人が出てくる可能性があるということの事実を多くの方に知っていただくことはとても重要なことと考えていた矢先、透析されている患者さんからのご紹介で出会ったのが佐伯さんでした。

     

    おロを拝見して、小さいころから歯で苦労されていたことが読み取れました。口腔内の状況、レントゲン診査、扁桃でも苦労されていたということなど総合的に判断して扁桃、歯が関係した病巣感染の可能性を直感しました。

     

    佐伯さんには病巣感染とは何かについてお話し、堀田先生の著書も読んでいただきました。

     

    過酷とも思える現在の口腔内の状態を長年耐えてこられたということは本質的には強靭な強さを持たれているはず。

    また一方で驚くべき前向きな生き方。

    これらのことからきっと悪条件を取り除くことで、もっと良くなっていただけると確信しました。

     

    体験者である佐伯さんから生の声は何よりも貴重で影響も大きいものになるはずです。

    そんな思いから原稿依頼を申し出たところ、「私でお役に立てれば」と、告白しにくい原稿を快く引き受けてくださいました。

     

     

  • プライス著『食生活と身体の退化』の翻訳をめぐって

    2009 恒志会会報 Vol.4 より

    呉 宏明:恒志会副理事長・大学教授

     

    この翻訳に関わった一人として、私の思いを述べたい。

     

    京都大学教育学部の大学院(日本教育史専攻)に在籍していた頃に、鈴木博信氏を通じて『食生活と身体の退化』を翻訳してくれる人を探すことを依頼された。

     

    一人で訳すにはとても膨大な量であったので、同じ大学院の教育社会学専攻の岩見和彦氏(現在関西大学教授)に相談したところ、同じ専攻の荒木功氏(元仏教大学教授、故人)と3人で訳すことになった。

    3人にとって歯科関係の本を翻訳するのは予想外であったが、プライス博士夫妻が世界の未開の部族を訪ねて歯と食生活の関係を調査するという文化人類学的な要素もあり、何とかなるのではないかと考え、翻訳作業に踏み切った。

     

    最初は荒木氏の自宅で、そして色々な会議室を転々とし、また最後の方では、京都山科のホテルで缶詰状態になったこともあった。

     

    最初は1日で原文の1頁から2頁を訳すのがせいぜいであったが、徐々にペースがあがり、章の分担を決め、大体の訳が出来上がった。

     

    そこからがまた大変で、訳語の統一や、適切な専門用語の使用や、わかりやすくまた滑らかな文章にする工夫など、片山先生を始め歯科医の方々の手を借りることになった。

     

    私の記憶では、翻訳を始めてから約10年経って出版が完成したと覚えている。

     

    翻訳に当たっては、私より他の2人の存在が大きいと思うし、岩見氏を通じて、本の帯に当時の国立民族博物館長の梅棹忠夫氏が推薦の言葉を書いてくれたことをとても嬉しく思った。

     

    また、鈴木博信氏は翻訳権を始め全体の折衝をしていただき、鈴木氏の存在は計り知れない。

     

    片山先生がおっしゃっていたことを思い出すと、医学の専門家だけが読むのではなく、一般の人が読んでも楽しめる訳書にしたいという強い希望があった。

    また、片山先生からは、翻訳を始めるにあたって、また完成するまでの過程を通じて、歯科や医療の知識、食生活の大事さ、医療の底にある深い哲学・宗教的意味、教育や社会の問題、それから美術や骨董品のことなどを何回も長時間にわたってお話をしていただいた。

     

    このことは私にとって大きな刺激になり、とても貴重な学習をさせていただいた。

     

    また、この本の翻訳がきっかけになり、歯科関係の書物や論文の翻訳を頼まれたり、プライス・ポッテンジャー財団やマイニー博士親子との手紙のやりとりをすることになった。

     

    そして、この一連の頼まれごとが、恒志会翻訳のジョージE・マイニー著『虫歯から始まる全身の病気』の出版に繋がっていったことはとても嬉しいことである。

     

    私は『食生活と身体の退化』を翻訳することによって、片山先生と出会い、また恒志会の副理事にならせていただき、土居先生や理事の先生方と知り合うことができて本当に嬉しく思っている。

     

     

  • 病巣感染と慢性免疫病 ー木を見て森も見る医療の実践ー

    2006 恒志会会報 Vol.3 より

    堀田 修:腎臓内科学・医学博士・日本腎臓学会評議員

     

    腎臓病、膠原病、関節炎などの慢性免疫病に対する治療の大半は「木を見て森を見ず」としばしば邦楡されるように、対症療法に終始している。

    これでは症状の緩和は得られても、患者を疾患から解放するような根本治療にはつながらない。

     

    慢性免疫病の根本治療につながる概念の一つが病巣感染症である。

    病巣感染とはからだのどこかに限局した慢性感染があって、それ自体は無症状かわずかな症状しか出さなくとも、遠隔の臓器に反応性の器質的な病変や機能的な異常を生じる病態である。

     

    多くの慢性疾患の根底に扁桃炎、齲歯(むし歯)などの病巣感染(focal infection)が関係していることが20世紀初頭に提唱され、一時期、欧米では大きな注目を集め、活発な議論が交わされた。

    心疾患、腎疾患、胆のう炎、消化性潰瘍などの内臓疾患から関節炎、皮膚炎、神経疾患に至る広範な疾患に病巣感染症の概念があてはまると考えられていた。

     

    実際、当時の記録によれば1920年〜1930年にボストンの大きな、ある教育病院に入院した患者の半数は病巣感染治療の結果、無歯の状態であったと記載されている。

     

    しかし、免疫学が未熟であっ た当時は抗原に感作されたリンパ球が遠隔臓器で細胞障害を惹起するという概念はなく、病巣感染の原因となった細菌あるいは細菌の毒素が遠隔臓器で直接病原性を発揮すると考えられていた。

    しかし、病巣感染症はあまりに壮大な概念であり、この仮説を証明する目的で膨大な実験が行われたが、残念ながら万人が納得する域には達しなかった。

     

    また、この概念に異を唱える研究者も多く、結局は1940年代の抗生剤治療の普及とともに医学の表舞台から姿を消し、欧米においては病巣感染症という概念は医学教育の現場からも半世紀余にわたり忘れ去られ今日に至っている。

    一方、日本では扁桃に関心を持つ耳鼻科医を中心に、欧米では病巣感染の概念がすたれた20世紀後半以降も地道な研究が続けられ、掌蹠膿疱症などを扁桃病巣疾患ととらえ扁桃摘出術(扁摘)が行われてきた。

    この背景には物事をより分析的な視点で見ることを得意とする欧米人と、どちらかというと伝統的に包括的な視点で物事を見る日本人との民族的な特性の違いも関与しているのだろう。

     

    IgA腎症は慢性腎臓病を代表する、透析導入の原因としては2番目に多い疾患である。

    最近までIgA腎疾は生涯治ることのない不治の腎臓病と考えられてきた。同疾患の臨床的特徴は咽頭炎を機に血尿が悪化することである。

     

    また、末期腎不全に陥って腎移植した場合は約半数が再発し、その一方でIgA腎疾の腎臓をほかの原因で腎不全になった患者に移植するとIgA腎疾が治ってしまうことが知られている。

    すなわちIgA腎疾の根本的な原因は腎臓そのものではなく腎臓外にあることが示唆され、咽頭にその根本原因が潜むことは容易に想定される。

     

    私の勤務する仙台社会保険病院腎臓疾患臨床研究センターは腎疾患患者を診る施設としては国内最大規模で、腎生検数は年間400例余である。

    このうちの約3割がIgA腎疾である。

     

    日々の診療を通じて、多くのIgA腎疾患者の扁桃に小さな膿点があることに気づいた私は1988年にIgA腎症に対し扁摘・ステロイドパルス併用療法を考案し、開始した。

    IgA腎疾の抗原刺激の根源である感染病巣となっている扁桃を取り除き、ステロイドパルスによりメモリーリンパ球をアポトーシスさせ免疫系をリセットする治療である。

     

    これまでに約1500例のIgA腎疾患者に同治療を行い、腎疾の初期の段階に治療介入を行えば高率に寛解・治癒が得られることが今では明らかになっている。

     

    公表されてしばらくの間、同治療は学会から批判的な扱いを受け続けたが、時がたつにつれてその劇的な効果を多くの臨床医が実感する機会が増え、また寛解・治癒を望む患者さん達の厚い支持を受け、今日、扁摘・ステロイドパルス併用療法は全国に普及し、わが国においてIgA腎症の標準的な治療の一翼を担っている。

     

    扁摘・ステロイドパルス併用療法により早期の段階であれば80%以上で寛解が得られるが血尿の残存例、再発例を一部に認める。

     

    このような症例は扁桃以外にも病巣感染が存在することが多く、中でも重要なものは鼻咽腔炎と歯科領域の慢性炎症である。

    実際、根尖性歯周炎を治療して再度寛解がえられたIgA腎症の症例をこれまでに経験している。

     

    IgA腎症などの病巣感染に伴う慢性免疫病の治療介入の視点で俯瞰すると、医科と歯科に分断された現在の医療体制の限界を感じずにはいられない。

    慢性免疫病の病態を評価するうえでは医師の視点が必要であるが、病巣感染の治療の実際には歯科医の関与がしばしば不可欠である。

     

    すなわち、医科と歯科の共同作業のうえに慢性免疫病に対する有効な治療介入は生まれる。

     

    しかしながら医科と歯科の間に横たわる高い壁は病巣感染症の有効治療はおろか、医師あるいは歯科医が病巣感染という概念そのものを学習する機会の妨げになっている。

     

    このような現状において、この度、歯科領域の病巣感染症学の祖というべきプライス博士の業績をまとめたマイニー博士の『虫歯から始まる全身の病気一隠されてきた歯原病の実態ー』がNPO法人恒志会の皆さんのご尽力により出版に至ったことは犬変に意義深い。

     

    この本に記載されている実験から得られた知見の数々は一世紀近い年月を経た今日でも未だ色褪せることなく、新鮮な示唆を読者に与えてくれる。

     

    同書が慢性免疫病治療における医科と歯科の架け橋になることを期待している。

  • 歯周病でなぜ歯槽骨は溶けるのか?

    ー最新科学での発見とブラッシングの有効性ー

    2011 恒志会会報 Vol.6 より

    河井 敬久 Toshihisa Kawai: Forsyth 研究所免疫講座 終身主任研究教授

     

    昨年になりますが、学生時代から二十数年の月日を経たち、縁あって恒志会の沖先生と土居先生にお会いしました。そして、片山先生が他界されたことを聞いて驚き、残念に思いました。

     

    しかし、恒志会の皆さんが片山先生の遺志を継ぎ、医患共同の生涯学習を支える慈善活動を継承し、さらに英語で書かれた、マイニー(Meing)の原著、“カバーラップ(Root Canal Cover-Up)”の日本語訳本、“虫歯から始まる全身の病気”を出版されたことを知り、研究者として感慨し、また自分白身が啓蒙されました。

     

    特に診療室で患者さんを診る多忙な日程の中、あのような重厚な著作を翻訳することは生やさしいことではありません。

    高き志を恒に保ち、Root Canal Cover-Up の翻訳を完成し出版された恒志会の皆さんに敬意を表したいと思います。

     

    私がまだ歯学部の学生だったころから、歯周病を「歯ブラシ一本で治す」片山先生のことはよく知られていましたが、当時の私は課外活動に忙しく残念ながら勉強不足でした。

     

    しかしその後、アメリカにおいて基礎科学の分野で歯周病を研究するようになって、歯周病の原因である細菌を歯ブラシで除去することの重要さが身にしみて分かるようになりました。

     

    最近の研究技術の進歩に伴い、歯ブラシで取り除くべき歯の表面に付着したプラークの性状が、より詳細に解明され、プラークがじつは抗生物質や免疫応答反応にまで抵抗してしまう“バイオフィルム”という細菌の要塞であることが明らかになりました。

     

    元来、プラークの奥底にいる細菌はすべて死んでいると思われていたのですが、近年の科学研究技術の発展、特に狭焦点顕微鏡の登場により、プラークの奥底で細菌がバイオフィルムという要塞壁に囲まれて生きていることが判ってきました。

     

    医療分野においては、尿道カテーテルや身体の中に完全に埋め込んである心臓ペースメーカーにまで黄色ブドウ球菌などがバイオフィルムを形成し消毒剤や抗生物質で除去できないことが問題となっています。

     

    現在多数の研究者が、バイオフィルムを除去する抗生物質に代わる新しい治療法を開発することに血眼になっていますが、重要なことにこのような細菌の要塞であるプラークは恒志会が唱導する歯ブラシで破壊するのが実際一番効果的な除去方法と考えられています。

     

    というのも、抗生物質や体の免疫細胞の攻撃に対して頑強なバイオフィルムですが、実は機械的な攻撃に脆いという側面を持っているからです。

     

    話が少し前後しますが、Cover-upは、歯医者であり、研究者でもあった、アメリカの歯科医プライス(Price)が90年前に提唱した根尖性歯周炎を発端とする病巣感染論を歯内療法専門医のマイニーが紹介する英語で書かれた本で、虫歯が治療されずに放置された結果起こる歯の象牙細管の細菌感染 “根尖性歯周炎” が如何に全身疾患に影響するかということを、プライスが今から90年前に延々と行ったウサギを使った科学的な実験結果を回顧する重厚な書物です。

  • なぜ歯科学でなく口腔医学でなければならないか ?

    2011 恒志会会報 Vol.6 より

    鈴木 博信:恒志会副理事長

     

    歯科は中国では牙科という。あわせて歯牙となるが、「歯牙にもかけない」といえば「論じるにも値しないと無視してかかる」という意味の成句であるのはご存知のとおりである。

     

    だが、歯を守るためには、歯根を支えている顎の骨 ―歯の土台となる歯槽骨― が溶けて消滅しないように守ることこそが肝要である。そのことを知るに至った21世紀人としては、歯科・牙科という伝統的なネーミングを「歯牙にかけず」にふりすて、口腔医学の旗をかかげ口腔医と名のるべき秋(とき)が来ているといってよい。

     

    なぜなら ―歯の根と顎の骨を包んでいる歯肉をマッサージし血行をよくすることによって、歯を支える大地たる顎の骨を強化し活性化してやること、そのさいとりわけ歯根の間のごみ掃除と歯根部をおおっている歯肉のマッサージを怠らないこと― この作法を身につけさせ身につけることこそ口腔医と患者の双方が協力して実行すべき作業の核心だからである。

     

    具体的には「ほんまもんの」ブラッシングという物理療法=良き生活習慣、を医患共同作戦で身につけることである。

     

  • 「食生活と身体の退化」との出会い

    2009 恒志会会報 Vol.4 より

    山田 勝巳 :千葉県富里市 自然農園主

     

    2003年頃私は有機農業の有用性や採算性を何らかの形でマクロ的な視点から表せないものだろうかと色々と調査していました。

     

    2000年から有機農業研究会の科学部を前任者から引き継ぎ、農業のかたわらその活動の中心だった遺伝子組み換え作物の本質を明らかにし会員に伝える活動をしていました。

     

    そんな中で、遺伝子組み換えに対する強い懸念が出てきていたと同時に、そうした方向性を辿らざるを得ない現行の農法や発想、社会システムに対する疑念も湧き上がってきていました。

     

    当時、一般的有機農業からもう一つの有機農業、自然農という不耕起栽培へ全面転換して間もない頃で、作物は殆ど取れず、さまざまな試行錯誤の最中でもありました。

     

    不耕起に切替えて多少とも農作物が収穫できるようになったのは4年後で、8年経つ現在では12軒の家庭に毎週供給できるところまで生産力が上がってきています。

     

    年々豊かになってきており、生産力は今後も増え続けるように感じています。

     

    この農法の優れた点は、耕さないこと、従ってトラクターや管理機などを必要としないこと、堆肥を大量投入しなくでもよいこと(最近ではほとんど投入の必要がない)、従って大量に有機物を外部から持込み、醗酵させるために切り替えしたりする機械などの必要がない。

     

    必要な道具は、草刈鎌と立ち鎌の二種類で、土地さえあればほとんど初期費用が要りません。課題といえば、生産力がつくまでの期間が長いこと、抑草作業が多い事くらいか?

  • なぜ「かかりつけ歯科医師」がいると長生きなのか

    2016 恒志会会報 Vol.11 より

    星 旦二:首都大学東京 名誉教授・医師

    生存を維持しQOLを高めるために必要な口腔ケア

    かかりつけ歯科医師がいると長生きだ

    私たちは、都市郊外A市の65歳以上の高齢者6年間追跡し、かかりつけ歯科医がいる人ほど、その6年後の生存が男女ともに維持されることを世界で初めて明確にしてきました。(図1)

     

    生存が維持されるメカニズムは何だろうか

    かかりつけ歯科医師がいるとなぜ故に、その後の生存が維持されるのかについて、東京都港区歯科医師会の協力を得て、2008年より歯科医院受診者を対象に継続的な調査を実施してきました。その研究仮設モデルです。(図2)

    調査の対象と方法

    調査対象者は、東京都港区芝歯科医師会会員42歯科医院を受診した10歳から95歳までの2,900人としました。

    調査方法は、自記式質問紙調査とともに、歯科医師による口腔内診査を行いました。

    有効回答数2,745人を分析対象としました。平均年齢は52.3歳でした。

     

    2012年には、2,745人の中の450人に対して、QOLを規定する要因を明確にするために、食の豊かさを追加して追跡調査を実施し、口腔ケアと口腔衛生と食の豊かさと主観的健康観や生活満足度との因果構造を解析しました。

     

    生存調査は、初期調査から約7年後の2015年3月31日までの生存と死亡の状況と死亡日を、歯科医院の受診状況と電話などによって明確にしました。

     

    調査内容は、自記式質問票の調査項目は、性と年齢、主観的健康観、生活満足感、歯間清掃用具(歯間ブラシやフロスなど)使用状況です。

     

    引き続き、歯科医師によって実施した口腔内診査として、現在歯数、口腔清掃状態、歯肉状態、受診状況を調査しました。

    星先生が講演会で用いたスライドを全て掲載してあります。

  • “伝える”ということ 漫画の役目

    2013 恒志会会報 Vol.8 より

    魚戸おさむ:漫画家

     

    皆さんは現在漫画を読むことはありますか? 雑誌で、単行本で、ネットで、ケイタイで、電子ブックで・・・今はいろんな媒体があり、読まれ方も様々です。

     

    「ここ何年も読んだことはないねえ」という方でも人生で一度も読んだことがない人は、ほぼいないのが日本人だと思います。それくらい漫画は日本に根付きました。

     

    ではそんな「漫画に影響されて現在がある。」という方はいらっしゃるでしょうか?

    「手塚治虫の『ブラックジャック』(図①)を読んで歯科医を目指した」という歯科医師の先生はいるのでしょうか?

     

    実は、裏の歯科医師の顔がありブラックジャックを地でいっている方がいたりするのでしょうか? 歯科医院の地下にあり得ない診療室があり、あり得ない高額だが、あり得ない治療で人を助けているとか…

     

    漫画家はすぐそのような空想をしてしまいがちですが、そんな漫画の影響を素直に受けて漫画家になってしまった一人がこの僕です。

     

    小学3年生の時にテレビで始まった手塚先生の「鉄腕アトム」(図②)のアニメの洗礼を受け、漫画を読みだし漫画を描き出すというこの業界ではエリートコース? を歩んで現在に至ります。早いもので洗礼を受けてからもうすぐ50年になります。

     

    おそらくそんな漫画家は日本中に数知れずいて活躍しているのだと思いますが、それでも自分の漫画だけで食べていけている日本の漫画家は3000人ほどだと聞いたことがあります。

    なかなか狭き門です。歯科医師になるのとどちらの確立がいいのでしょうか?

     

    運良くこうして漫画を描く仕事に付き暮らしていけていることに本当に感謝している毎日ですが、年齢と共にただ好きな漫画を描くだけじゃあもったいないと思うようになってきたのです。

     

    「どれほどの漫画を描いてきてそう言ってるの?」と、突っ込みが入りそうですが、それでもこの道28年、いろんな漫画を描かせてもらってきて今やっと気が付いたのです。

  • 虫歯、歯周病は生活習慣病

    2007 恒志会会報 Vol.2 より

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    恒志会の土居元良理事長に恒志会の活動を紹介していただきました。心ある歯科医の集まりである恒志会は、歯科医であった片山恒夫氏の遺志を継いだ人たちの集まりです。私が、片山氏を知ったのはウェストン・プライスの『Nutrition and Physical Degeneration』(食生活と身体の退化)という本がプライス・ポテンジャー(Price-Pottenger)栄養財団で発行され、その日本語版『食生活と身体の退化』(本誌N0.348号2002年11月号で紹介)があると知って連絡を取ったのが始まりです。虫歯を生活習慣病と捉えて、治療だけでなく食生活や衛生管理を指導し予防を目指した、歯科医療者としては稀な方でした。矯正、インプラント、審美歯科など対症療法的医療や自己負担の治療が増える中、本来の生命力を活かす視点から予防を考える治療は、農業で有機がそうであるように、医療の本流になっていくべきものと思います。互いに役立つことを施しあって、今後とも強いつながりを形成していけたらと願っています。

       自然農園/千葉県富里市 科学部 山田勝巳

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    土居元良:NPO法人恒志会理事長

    近代食で虫歯、歯周病が多発

     

    NPO法人恒志会について紹介させていただきます。開業歯科医であった故片山恒夫先生は、日本では予防が一般的でない時代から、予防の大切さを訴えておられました。一度治療した歯の再治療、やり直しのない歯科医療の確立に生涯をかけられました。

     

    その片山先生の志を継承するために、歯科医療関係者だけではなく、健康に関係するさまざまな人びとの参加を求め、結集して、恒志会が平成16年4月に設立されました。会報『地べたからの想い』を発行しています。ご購読を飲迎いたします。

     

    虫歯、歯周病を生活習慣病と捉えることに大きな意味があります。患者さんの治療参加と生活改善なしには、治癒し、再発を防ぐことはできないのです。

     

    片山恒夫先生は患者さんの治療参加にさまざまな工夫をされましたが、食生活をはじめとする、生活改善の意義を伝えるのに苦労されておりました。見つけられたのが、W・A・プライスの著書でした。プライス博士が世界14カ国を巡り調査され、明らかにされたのは、その土地の食べ物と食べ方から、精白小麦粉、砂糖、缶詰など近代食に移行すると、虫歯、歯周病の多発だけではなく、歯並び、噛み合わせに異常を生じるということです。また、心身にもさまざまな変化を生ずるというものでした。

     

    さらにプライス博士は、牛、羊で実験をして、偏った飼料で飼育した母親から奇形の子供が生まれることを見つけました。奇形の子供も、バランスのとれた飼料と環境で飼育すると、次の世代の子供は健康な子牛、子羊が生まれることを証明しています。奇形は遺伝ではなく、食べ物の影響であることを明らかにしました。

     

    プライス博士の著書『食生活と身体の退化』では、本来の食生活をしている人の顔写真、口腔内写真と、近代食に移行した後の写真を比較して見ることができるように編集されています。500ページに及ぶ書籍です。

     

    片山恒夫先生はこの書籍の重要性を認めて、1978年に翻訳、自費出版されました。日本有機農業研究会の方々にも、ぜひご紹介したい書籍です。

     

    恒志会は、プライス博士の業績を管理継承している「プライス・ポテンジャー栄養財団](PPNF)とは姉妹関係にあります。

  • 患者に人気のある歯科医師を目指すには

     

    この講演は、平成9年10月8日、「広島恒歯会」が主催し、後に講演録として上梓したもので、
    広島恒歯会会員と片山先生など一部の関係者だけに配布された貴重な資料です。
    広島恒歯会の岩崎 博先生始め「広島恒歯会」の先生方の快い許諾を得て公開しております。

     

    長倉 功 講演録 ダウンロード

     

    長倉 功(ながくら・いさお)先生略歴

     

    1937(昭和12)年11月30日、東京生まれ。
    1960年3月、東京大学教養学科(科学史及び科学哲学分科)卒。
    同年4月、朝日新聞社入社。
    西部(小倉)経済部員、東京科学部員、大阪学芸部次長、月刊健康雑誌『朝日健康情報(フットワーク)』編集長などを経て、1989年1月から編集委員。
    1997年11月、定年退職。

    東京医科歯科大学非常勤講師、健康・医療ガイドセンター役員・歯科相談員を務めた。
    厚生省成人歯科保健対策検討委員会、厚生省歯科医師養成の在り方に関する検討委員会など多くの委員を歴任。


    「心の原点」「離婚」「歯なしにならない話」「暮らしの健康学」「生命合成への道」「現代養生訓」「炭酸ガス」「心のプリズム」「「地震列島」「ことわざ医学事典」「老人ボケがなおる」「歯槽膿漏ー抜かずに治るー」等の連載記事、著書、共著多数。